やがて君は鳥になる。

『Y』-佐藤正午、読了。ハルキ文庫。

簡単にしかもざくっと乱暴に解釈して言うと、存在しない時間/過去の時間への思いゆえ有り得なかった過去を存在させてしまう非業のオトコの恋愛物語。時間を戻すことで人物の相関関係を連環させてくその感覚がこの文章の核か。つまり何処かへ時間戻しても周囲との関係性が変化するだけで実のとこ「誰と関わる」というのは変わらないし、一種の連鎖の中に閉じ込められるだけだ、て解釈がなかなか興味深かった。

ところでこの物語、面白いのだけどどうも読了してもすっきりしない。なんだか出口がなく、結局何処に行くつくのか理解らないとこが読後なんとなく感じた漠然とした煮え切らなさの原因かもしれない。他の可能性もあったんだね、よし今を受け入れよう、という割り切りだけで観察者たる主人公がこの非業を語り終えてよいものだろうか、なんて思う。そう考えると、なんだかとっても待っても待ってもやって来ないゴドーを待つ並に、不条理な物語という気はする。ロマンチックでミステリアスな一面に騙されちゃいけない。この物語実のとこ、結構深いぜ。