烏。

そいつは、実に性格の良いカラスだった。

見かけは、純粋に、全くの真っ黒のカラスだ。くちばしからしっぽの先まで黒く、くちばしは凶暴にとがり、僕はそのからだから漂う敵意のようなものに畏怖の念と嫌悪感の中間の感情を覚える。

けど、僕は本当は知ってるのだ。そいつが、実に性格の良いカラスだ、てこと。そうなんだけど、僕は彼が近づくと、からだと表情を強張らせる。カラスは、何せ性格の良いやつだから、そんな僕の表情を見ても何も言わず、僕に親しげに、丁寧に話しかける。回りのセキセイインコたちも、カラスのことを避けている。誰もカラスを悪くいうやつなんていない。小鳥だろうが人間だろうが、オトナだろうが子供だろうが、そいつの性格の良さを知ってるし、尊敬すらしてるのだ。けど、僕らは結局、そいつを受け入れられない。受け入れられない自分にまた、さもしさを感じながら。

そして僕は、つい言ってしまったのだ。肩に止まるそいつに。来るな!と。その凶暴な姿で僕に近づかないでくれ。小鳥に囲まれて僕は暮らしたいんだ。そんなこと、言うつもりじゃなかった。けど、叫んだ瞬間にはもう遅かった。こぼれた言葉は何処にも帰らない。

カラスは、姿を消した。僕が叫んだ瞬間の、カラスの寂しそうな瞳のことを思い出した。小鳥たちもオトナたちも皆、何がカラスにここを去る決意をさせたのかは知っていた。けど、皆は何も言わなかった。みんな、同じだったのだ。みんな、同じ感情をあいつに感じていたのだから。

ふと、僕は涙を流している自分に気づいた。幾ら泣いても遅すぎることなんて分かりきっていた。けど、僕は泣かずにはいられなかった。小鳥は歌を止めた。大人は仕事を止めた。そして、僕は泣き喚き続けた。

そいつは、あまりに性格の良いカラスだった。だけども、その黒さが、僕の瞳に何かを映してしまうのだ。皆、その正体を知っていた。ただ、気づかないふりをしていただけだったんだ。歌を歌いながら、働きながら。何かを守りながら、そして、失いながら。