made in heavenな言葉はきっとグライダー。

『グライダー』-capsule

今更のようにiTunes Music Storeで150円で拾ったライト・リスナーな僕が書くべきコメントじゃぁないってこと百も承知で書くけど、この曲名曲だわ。打ち込み系ガールポップの究極の完成形かもしれない。音はチープだし、ヴォーカルはヴォコーダーでつぶしてて単調だし、延々4つ打ちでぴこぴこ言ってるだけじゃん、つか今更渋谷系ですか?という意見はあるかもしれないけど、僕はそういう評を見つけたら、片っ端から「君は100円のチープな予算で材料を仕入れ、他人の胸を容赦なく打ち、泣かせるくらいのご馳走をつくることができるか?」と尋ねたい。あえてチープにつくるからこそ、楽曲の完成度と料理人の職人芸が際立つこともある、という好例。

歌詞とメロディとアレンジのシンクロ具合が半端なく気持ちよい。表4拍のシンセ音のリフレインが転調を強調する装置として働く。メロディは、転調が多くてなかなか安定しない。明らかにメジャー・コード・ナンバーなのに、サビの終りはマイナーで終わり、しかもオトの動きは淡々としてて、微妙なかげりと揺らぎを残す。すごいのは、だけどそんなでも全体通してみればとても洗練された美メロだってこと。更に、かげりと揺らぎの上には、「大体いっつも飛んでるみたいだ」というフレーズが(機械的ビブラートヴォーカルによって)乗っけられる。フレーズのポイントは「大体」と「みたい」。この2語で、この曲が、宮崎駿的に希望に満ちて空飛ぶ曲ではなく、「実は飛べない」というのがテーマの曲だってことに気づかされる。考えてみれば、重力的な一定の規則性(リフレイン、単調なリズム)に支配されたメロディもアレンジも、跳躍感と言うよりかは疾走感を構成している要素なのだ。飛ぶように見せかけて、滑り落ちてく。まさしく「グライダー」である。

"fly away"に擬態した"run away." ああそうか、ヒコウはヒコウでも、これは逃避行のヒコウなのかもしれない。しかし、そっちのヒコウだからこそ、なんだか妙に愛おしいし、美しいとすら感じちゃうのだ。疲れてる夜なんかに、駅降りてふとこの曲が流れちゃったりすると、すさまじいリビドーが身体を駆け抜けてくわけなのだ。もう一度言おう、今更まともに聴いてみましたけど、ごめん、4つ打ちガールポップ史上に残る、詩情最上級の名曲です。