期待外れの/日々を継ぎ接ぎ/色色衣(字あまり過ぎ)。

前々回書き損ねた『色色衣』-スピッツ。の話。

実はこの収録曲、スピッツ初レコーディング音源「僕はジェット」を除けば全部シングルで持ってるんだよな。わざわざ集めたんだよーカップリングに佳曲多いから。だから新品で買わず、中古で買ったのは許しておくれ。つか、今この時期に新品で買うと手に入らないモノがあるのだ。

何かと言うと、初回限定で封入されてたスピッツメンバーとスピッツの初期の活動から関わる事務所社長坂口優治と、ディレクターでありMOTORWORKSを輩出したTeenage Symphonyレーベルマスターである竹内修の対談。これ、30センチ四方くらいの紙に小さな字でみーっちり書いてあるのだけど。濃い。実に濃い。つか濃すぎ。こんなもの、スターゲイザー夢追い虫目当てで半ばベスト盤感覚で買ったライトリスナーは面食らうだろう。ていうくらい濃い。下手な雑誌のインタビューよりずっと濃い。

題名をつけるとすれば「スピッツの音的挑戦」。だけど、ソングライティングの挑戦ではない。なんとミキシング/エンジニアリングの方だ。まぁ読めば名だたるミキサーの名前が連呼され、ここでマスタリングやら録りがどうのプロデューサーにだれだれを招いて音的にどうこうとか、アメリカで音録った時のミキサーがベストだとか、そゆ、言わば表にはでてこないギョーカイ話が延々連ねられてる。「レコーディングマガジン」とか読んで面白いと思うタイプの人間だったら垂涎モノな対談だ。だけど、これを半ベストな企画盤の特典に封入する勇気というかマーケットを意識しない天然ぶりがスピッツスピッツたる由縁なのか。だってフツウ、「この曲はこゆ心境でつくりました」て話がこいう対談では中心になるはずじゃんか、「CDデータ」に載るような感じの。そゆ内容もなくはないけど、そゆ内容で読もうとする層には全くついてけないはずだ。そもそも「『RECYCLE』事件て何?」て思うわさ。ライトリスナーにしてみれば。

因みに僕にしてみれば垂涎も垂涎の涎だらだら状態。目当てに買う価値は十分ありました。そもそも僕もマサムネと同じく『インディゴ地平線』や『フェイクファー』のマスタリングには不満を持っていた人間だったのだ。あの篭った感じを、スピッツSN比と仮称してた文筆業者さんがいたけど、やっぱり何か足りないなぁ、という感覚を覚えたのは事実。『ハチミツ』や『ソラトビ』はそれを逆手にとって巧く世界観作り出せたと思うけど、それ以降、例えば『インディゴ』はヴォーカルや高音の映えが圧倒的に悪く、『フェイクファー』では、佳曲揃いにも関わらず、トータル感みたいのが感じられなかった。前者は最近のスピッツ曲と比較して聴けば一発で理解る。(シングル曲以外に佳曲が少くマサムネの歌唱自体が大人しいてのもあるけど)曲が可愛そうになるくらいの非道さだと思う。後者の原因を探ると、これは音の録りの問題だとやっぱり思う。ギターを歪ませた「センチメンタル」「スーパーノヴァ」みたいな曲と、スピッツ節全開な「冷たい頬」「仲良し」等が音的にうまいこと繋がってこないのだ。これ、双方の音像がクリアで共通項があるなら解決する問題だと思うのだけど、そのサウンド面からみた曲と曲の結び付け方が半端というかなんというか……。

ここまで読んだ賢明なる読者はもぅ……てこのパタンもう飽きたな。そう、そのオーディオ的課題を解決した日本の優秀なプロデューサがいて、それが石田小吉であり、亀田誠治である、て話をしたいんだな要は。石田は日本では屈指のエンジニアである寺田康彦を引っ張り出して、洋楽を強く意識したその手法で以って、スピッツの音イメージの既成概念を完全にぶち壊し、スピッツの「鳴らす」ことへの本能を覚醒させた。特にThe Whoやポリス辺りを強く意識したらしいリズム隊のはじけ方は秀逸だ。そしてそのバンドサウンド路線と、かつてのスピッツ王道路線を巧いこと融合させたのが亀田誠治だった。と。力強く何処か湿り気のある英国系な音だった『隼』の音に対し、力強いが透明感があり情緒に溢れた『三日月ロック』の音を作り上げた。

実を言うと、音の録り方だけ見ると、僕は『隼』より『三日月ロック』好きだったりする。捨て曲がないのもその理由のひとつだけど。『隼』は音の録り、というよりかはむしろ、スピッツというバンドを覚醒させたこと、そしてかつてあった音を超えるモノを造ろうとした挑戦のモチベーション自体を気に入っている感じ。テーマが「『ハチミツ』を超えるモノを造る」だった、というのは有名な話だけども、その強いモチベーションが(プロデューサやスタッフを巻き込む形で)音に溢れてる感じが素晴らしい。つか石田に巻き込まれた、てのが間違いなくあるんだけども。メモリーズを完全に石田の音に変えたばかりか、石田のメロを思い切り挟んじゃった辺りが象徴的、つかあからさまだ。楽しかったんだろうなーレコーディング、てのが伝わってくるビンビン。

あー結局イシダマンセーで終わるのか……まぁいいや。因みにアルバム『色色衣』の話に戻すと、リマスタリングされた曲曲の変貌具合が秀逸でありました。特に「青春生き残りゲーム」はサバイバルな感じ大匙10杯増しくらいな感じで、なかなか素晴らしい。最初聴いたとき後期の曲かと一瞬間違えた。生き残れ生き残れ。


だけど、ここだけの話、一番個人的に好きなのは「大宮サンセット」であります。ご当地ソング、万歳。まぁ、今のところ僕以外に、その本当の理由は知らない。はず。