信じない、信じたい。

『ジョン・レノンを信じるな』-片山恭一

一躍時の人となった文章書きさんの96年作品。武器であるテンポ良く響く文体はそのままに、やや抽象的、観念的な部分と理解りやすい恋愛青春小説のプロットをはさみストーリが続く。基本的には「内面/史実/現在」という場面織り交ぜて、それぞれの場面で「ジョン・レノン」というモチーフを軸としつつ「僕」のアオハルを描いてる感じ。なんとなく村上春樹の『風の歌を聴け』に近い手触りがある。ただあそこまで突き抜けてなく、また線が美しく絡んではいないし、ある種のクールさを美徳とはしていない。

しかしまぁ読み通すと不思議な感覚を覚える小説。オウム事件の影響、と本人があとがきで語ってるけど「暴力性」というモチーフがキレイで不器用で孤独な恋愛物語の間に挟まり、その間を埋めるのが僕の内面に居るジョン・レノン、或いはホールディン・コールフィールド少年(from ライ麦)。そしてどうにもこうにも、その意味は、とか問うても実は余り意味が無い気がする。「僕」にとってジョンはジョンでしかないし僕は僕でしかない。結局はそれ以上のことを語ってはいないし、そう考えるのが正当な小説、そんな気はした。根拠は無いけど。

そんなこんなで結構面白かったすよ。少なくともなかなかキレイな文体を駆使して白血病か何かでおんなのこ失って叫ぶセンチメンタリズムのカタマリみたいなプロットで書くという実に勿体無いことやらかしてる小説に比べれば。ねぇ?