『Love your life』-石田ショーキチ。

love your life

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正直に言おう。これは期待以上の出来だった。嬉しい誤算と言い換えてもいい。石田ショーキチの、ソロデビューアルバムのこと。

石田のキャリアの始まりだったSpiral Lifeの音にノックアウトされたのが、ちょうど10年前のこと。そのとき、石田は既にSCUDELIA ELECTROというチームで活動していて、その音も僕を夢中にさせた。Spiral Life時代のレーベルメイトであり、L⇔Rだった頃僕を夢中にさせていた黒沢健一と組んだMOTORWORKSも、やはり僕を夢中にさせた。だけど、近年のマイペースな石田の活動が、何処か僕を不安にさせていたのはまぎれもない事実だ。SCUDELIA ELECTROの後期の音は、完成度こそ高かったけれども、有無を言わさないギラギラした輝きというのは薄れていたし、MOTORWORKSは、やはり、シンガー黒沢健一の魅力が先行したユニット。石田印という点からすると、物足りなさが残るものではあった。

それがどうだろう。この『Love your Life』の輝きは。

この盤は、何処を切っても石田ショーキチの音である。ソロアルバムだから当たり前だ。だけども、ここまで照れもなく、自分の好きな音を出しきってしまえるタイプのソングライターではないと思っていたフシが、僕の頭の片隅にはあった。SCUDELIA後期の彼が顕著だったけども、彼は「ショーケース」的な音をつくるのもまた巧いクリエーターだから、つい何か(例えば、クライアントやレーベルの要請的なもの)に寄り添った音や、プロデュースワークのPR用の音の玉手箱のような出来になるのではないか。或いは、ま逆に、自分の初期衝動にしたがった、バンドサウンド一辺倒のアルバムになるんじゃないかとも想像していたのだ。

実際蓋をあけてみれば、『Love Your Life』は、彼の音楽人生の集大成とも言える質感の作品となった。80'sを想起させる柔らかい打ち込みは、懐かしく響くも、同時に「新しさ」を感じさせる。なんで新しいかって? それはこの盤の持つ空気が、あまりに瑞々しいからだ。メロディラインは、これでもかこれでもかと、彼の十八番の美メロの洪水。ノスタルジーなんて何処へやら、という感じだ。

歌詞も同様。彼の39年の人生を総括するかのような歌詞のストーリー。それは、ただの「追憶」に終わらず、「郷愁」に支配されることもなく、ただただ「今-ここ」にいる自分自身、そして自分の周りの人間に向かっている。だから、下手な自分史小説のようには湿っぽく響いてこない。むしろ、少年が夢を書き溜めた帳面のように、ギラギラしている(しかも、年相応に適度に脂が落ちているところがまたいい)。

思えば、Spiral Lifeは、常に高い理想の中に精神的な未成熟さを抱え(そのギャップからくるのか)一種の諦観に支配されたサウンドだった。SCUDELIA ELECTROは、離婚、病気、レーベルの移籍、メンバーとのコミュニケーション不全などなどに対する、石田ショーキチの後ろ向きの感情がエンジンとなって名曲を生んだユニットだったような気がする。そのことを踏まえれば、『Love Your Life』は、石田ショーキチがはじめて、世の中を肯定し、後ろではなく現在-未来指向で曲を書いた作品と言えるのかもしれない。SCUDELIA解散からの3年という時間は、彼が、「今-ここ」に向き合って音楽をする覚悟を決めるために必要な、充電期間だったのかもしれない。

……まぁ人生いろいろあるし、これからももっといろいろあるんだろうけど、願わくば、自分が39歳とかになったときに、もう少しくらいは前に進んでて、それなりには輝いてて、周りの人間にてらいなく笑顔を振りまける自分でありたいよね……。

そんなことを率直に思える。こんな恥ずかしい感情だって素直に出てきちゃったりするのは、きっとすぐれたポップスのマジックの証に他ならない。なんというか、幸せなアルバムだ。『Love Your Life』。