爆音リッピング。
以前、というか半月くらい前にTHE PREDATORSの『Hunting!!!!』というアルバムを買った。the pillowsの山中さわおとストレイテナーのナカヤマシンペイとGLAYのJIROの組んだオルタナパンクバンドで、それはそれはかっちょいいオトを鳴らしてる粋な3人組な訳ですが、そのジャケットのおもて表紙の裏側の下側にこんなことが書いてあった。まぁ読めばそのままなのだけど、新鮮な驚きと不可思議さの入り混じった感情を覚えたのでちょい記す。
良い音でお楽しみ下さい
本作品は電源、ケーブル、レーザーカッティング、プレス工程まで考慮し、細心の神経を払ってマスタリングをいたしました。CD-Rやハードディスク等のコピーでは製作者の意図するサウンドが損なわれるおそれがありますので、是非オリジナルのCDの良い音でお楽しみ下さい。
おー。流石は『音楽と人』で表紙を飾るバンドだ。て、それは関係ないけど、実に細かいCD製造の工程まで記した上で、オトへの拘りを徹底して強調している。それその通り、マスタリングとはCDの音質を決定付ける上で重要な工程らしい、というのは、幾つかのリマスタリングされた音源集めたベスト盤だとかなんとか聴けば察しはつくとこなんだけども。けども。
今、僕はiTunesに音源ぶっこんで、つまりCDの「オリジナル」音源をMP3データ化してHDDにコピーしてヘッドフォンでこの盤聴いてる訳だけど、ぜんぜん違和感なく楽しませて頂いているのですますよ。バンドのグルーヴ感もそんなに損なわれてないと思う。つか、イコライジングとかのコンディションによっては、こゆバンドサウンドって特に、MP3の音源とCD-DAからダイレクトに聴いたオト、聴き間違えることだってありうるんじゃないかな、と素朴に思う。
例えばちょっと極端な比較だけど、10,000円切るCDラジカセにCDのっけてスピーカーで聴くTHE PREDATORSのオトと、今僕がPCのUSBからYAMAHAの30,000円のMIDI/オーディオインターフェースに出力してONKYOのコンポにライン入力してオーディオテクニカの6,000円の密閉型ヘッドフォンを通して聴いてるMP3のTHE PREDATORSのオト、どちらが「良い音」なんだろう、てちょっと考えちゃうよね。そゆ意味では、安い装置でオトを聴く方がよっぽど音楽屋の意図するオトとはかけ離れることだってあるんじゃないか。
恐らく、丹念に作られた製作者様の意図されたオト、てのは、スタジオにあるHi-Fiな装置とモニタースピーカーやなんかで確認されたオトであるんでしょう。けどそこで意図されたオト、てゆうのが一般家庭で再現される可能性、ていうのは元々ゼロに等しいんじゃないか。てピュアに僕は思う。MP3に圧縮されようがコピーされようが、CDまんまだろうが、である。
どうも世間の「CCCDは音質が悪い」とか「iTunesのMP3エンコードは品質が悪い」とかいう議論を見ても思うんだけど、デジタルデータとして固定されてるオト情報そのものの「音質」について議論されることは多いんだけど、オト情報の出口であるとこのオーディオ環境を考慮した上での議論は少ないような気がしてる。僕はたぶん、CDやCCCDの音質の違いとか、iTunesでMP3化した音源ともっと良いソフトでMP3化した音源の音質の違いなんてそうそう分からないと思う。オーディオ環境やそのヴォリュームやイコライジングの設定かなんかでまずオトは一変するし、そもそもその日の気分によって良いオトと思って聴いてたものが不快なオトに聴こえるときだってある。じゃぁ元々意図されてるオトって何者なんだろう?て思ってしまうのである。幾らそれに近づけようとしても遠くなってく。永遠にそんなもの聴こえてこないんじゃなかろか。
そしてそれを製作者サイドの人間が分からないわけはないと思ってる。だってオトのプロだもの。つまりはこの口上は、世間のある種偏った「音質至上主義思想」を逆手に取ったレンタルしてコピーするなCD買えという無言のプレッシャー(書いてあるけど)に他ならない、ようにしか見えない。折角良いオト届けてるんだから、逆にこう言って欲しいよ僕は。「この音源はCDまんまだろうがMP3だろうが、良い音楽には変わりません!それぞれの楽しみ方で楽しんでください!」と。
……。……。
とかなんとか言いつつ僕はとっくに気付いてます。この盤収録分数少ないから、書いてる間に2回聴けるんですよ。で、今実はCDで聴きなおしてます。ONKYOのコンポ直でヘッドフォンから。言ってること根底から覆すようでなんだけど、ぜーんぜん違うね。まずUSBやらケーブルを介さないからノイズがない。高音域の下手な圧縮がないから轟音だけど耳が疲れない。低音の立ち上がりも良い。ダイナミックレンジの幅が広い、という表現が専門用語的に正しいのかは知らないけど、ともあれ音像が断然鮮明である。MP3は、クラシックやアコースティックモノ、アカペラ等々音数の少ないモノになると別物にたまに聴こえることもある。ホール演奏等の録音になってくると特に非道い。残響をぶったぎったようなオトが聴こえてたまにがっかりする。
更に別のオトの出口のことも考えてみる。iTunesからのオトの行き先であるiPod。これ、やっぱり幾らヘッドフォン変えてもEQ設定いじってみても、音質よろしくない。買って以来ずっと思ってて不満ぶちまけようと思ってたらほどなくして津田大介氏の『音楽配信メモ』で話題になってた。(http://xtc.bz/index.php?ID=143/http://xtc.bz/index.php?ID=153)。まぁここに書いてある推測に僕もほぼ同意です。他のMP3プレイヤーは知らないので比較できないけど、MP3焼いたCDをソニーのCDウォークマンで聴いたときとぜんぜん違うんだもの。これは「オーディオメーカー」と「PCメーカー」の違いから来ている必然的な結果だと思う。そしてそもそも、オトの出口に対する作り手の思想の根本からして、別物なんだろう。
けど消費者は、決して音質が良くはないiPodを選んだ。MP3を選んだ。ミュージカルバトンが期せずしてか明らかにしたけど、CDを買ってもすぐにデータ化してしまうひとがわんさかいる。Blog持ちユーザがほぼ調査の対象という偏りはあったとは言え、10GBなんて割とフツウだった。或いは、時代が「使い勝手>音質」+「量>音質」というシコウに流れているてことかもしれない。だとしたら、作り手側も、その流れに対して意識的になったほが良いと思う。大瀧詠一がやってるよなマスタリングの職人技や生まれる成果物は否定しないどころか大肯定だし、このTHE PREDATORSのCDのオトにしたって好きだけど、それと「オリジナルなオトを聴いてください」という思想というのは、つながりそうでつながらない、やや別の次元の話のよに思えてしまう。幾らこういわれても、耳で確かめても、僕は音質の悪さを分かってて、MP3を聴き、iPodを持ち歩き、音質の差もよく分からなくなるくらいの爆音で音楽を聴くのだ。もう僕らは、単純な「音質至上主義」には戻れない、てことなのだろうね。たぶん。