5分後においでよ。

『真夜中の5分前 Side-A/Side-B』-本多孝好

やぁ、やっぱりこのひとは「短編連作」向きの作家なのだなぁと長編読むとつくづく思う。要するに細かなエピソードを疲れた肩にぶら下げて眩しそうに描くのが巧いんだこのひと。それが、1挿話で終わりその伏線をほんの少し纏わせつつ2つ目に入る、てなると心地良いんだけど、2、3、4……と一連のプロットの流れの中で積み重ねが来るとやや食傷してくる部分がある。そして、伏線のつみ方がドラマティックかつロマンティスティックなのに、幕切れが短編的で唐突な印象を受けるのも本多長編の特徴。と言っても長編は2作目か……。仕方ないのかなこの辺は。

ところが、まぁはっきり言ってそんなこたどうでも良いのである。結局煮え切らないとかそんなのはどうでも良い。彼のテキストや物語構築へのある種の美学が読者である自分にとって、快楽そのものだからだ。とにかく心地良い。先ず語感が良い。リズム感が良い。垣間見える風景がまた良い。Closedな感覚とOpenな感覚の往復感覚もまた良い。煮え切らないくせに、読み終えた後「これはこれで良かったんだ。」と言い切れてしまう。誰かのことばを借りるなら彼がシコウする物語への必然性と強い動機。それが確かにあると感じさせてしまう。

断言してしまおう。本多孝好は、陳腐なあざとさを見せずに読者を泣かせようと企むことのできる、日本でも数少ない文章屋のひとりである。と。そう、泣くとことは、快楽なのだ。書くことと同様に。